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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)704号 判決 1962年7月02日

控訴人 原告 伊奈登吉

被控訴人 被告 荒木音吉

主文

原判決を取消す。

本件訴は、昭和三七年二月一〇日午前一〇時の原審(横浜地裁横須賀支部)に於ける最初に為すべき口頭弁論の期日に、控訴人(原告)の不出頭に基づく異議の取下に因つて終了した。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。横浜地方裁判所横須賀支部昭和三六年(リ)第一号有体動産競売売得金配当事件につき作成された配当表中、被控訴人に対する配当を取消して、控訴人の債権に対して優先配当するように変更する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は、適式な期日の告知を受けながら、当裁判所の構成に変更のあつた昭和三七年六月一一日午前一〇時の口頭弁論期日に出頭しない、而して控訴人陳述の従前の口頭弁論の結果によれば、被控訴人は控訴棄却の判決を求めたというに在る。

控訴人の陳述した従前の口頭弁論の結果によれば、当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の関係は、控訴人が一控訴人は請求の趣旨掲記の配当事件における昭和三六年一一月一七日午前一〇時の配当期日に出頭し、同事件につき作成された配当表に関し、被控訴人に配当することに異議ある旨申立てたのであるが、被控訴人は右異議を認めなかつた。」と述べ、控訴人が証拠として甲第一号証を提出したほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

控訴人が横浜地方裁判所横須賀支部昭和三六年(リ)第一号有体動産競売売得金配当事件における昭和三六年一一月一七日午前一〇時の配当期日に出頭し、同事件につき作成された配当表に関し、その主張の如き異議申立をし、被控訴人が右異議を認めなかつたことは、公文書であるから真正に成立したものと推定すべき甲第一号証(本件配当期日調書謄本)の記載によつて明らかである。しかしながら本件記録によれば、控訴人は合式な期日の告知を受けながら昭和三七年二月一〇日午前一〇時の原審における最初になすべき口頭弁論期日に出頭しなかつたことが明らかであるから(なお、控訴人から同年二月一二日になされた右期日の延期申請は右期日に適法に却下されている)、民事訴訟法第六三七条の規定により、控訴人は前記異議の申立を取下げたものと看做され、此により異議がなかつたことに擬制され、配当異議の訴は目的の消滅に因り当然に(即ち何等の裁判をすることなく)終了したものと解するを相当とする。蓋し改正前の民訴法第六三七条には「異議を申立てたる債権者が口頭弁論の期日に出頭せざるときは異議を取下げたるものと看做す旨の欠席判決を為すべし」と規定し、又その第六三八条には「前二条の判決確定の証明あるときは配当裁判所は其判決に基き支払又は他の配当手続を命ず」と規定してあつたのに対し、所謂欠席判決の制度を廃した現行法第六三七条は「異議を取下げたものと看做す」とし、また第六三八条は「第六三六条の判決の確定したこと又は前条の規定に従い異議を取下げたるものと看做されたることの証明あるときは配当裁判所は之に基き支払又は他の配当手続を命ず」と規定した点を比較して考えれば、現行法第六三七条は単に期日に出頭しないという事実に異議取下の効果を付与したのであり、判決により之を宣言乃至確認することは要求しておらず、又第六三八条の規定自体も異議を取下げたものと看做されたことの証明を確定判決によるべしとしていないこと極めて明らかである。従つて現行法第六三七条第六三八条は最初に為すべき口頭弁論の期日に原告たる債権者の不出頭により異議の取下(異議の訴の取下にあらず)を擬制することによつて、配当異議訴訟はその目的を失い当然に終了したものとしていると解するのが最も立法の精神に合致するのである。従つて最初に為すべき口頭弁論の期日に原告が欠席した場合には、被告の出頭と否とを問わず、訴訟は当然に終了となり何等の判決を要しないのみならず、此の場合には民訴法第一三八条、第二三八条の適用の余地もないのである。

以上の如く解しても「異議を取下げたものと看做す旨の欠席判決」に対して不服申立を為し得た原告の地位は、旧法に比して特に不利益にはならない。蓋し訴訟終了を不当とする理由がある場合には、原告は期日指定の申立によつて、訴終了の当否を争い得る方法はなお之を有するからである。

以上の通りであるから、本件は最初に為すべき口頭弁論の期日に於ける原告(控訴人)の欠席によつて当然終了し、原審は何等の裁判を為すことを要しなかつた筈であるところ、請求棄却の判決を為したため控訴申立となつたのであり、此の申立により控訴人は本件訴がなお有効に繋属していることをも主張しているものと解せられる。

仍て民訴法第三八七条により原判決を取消すと共に、本訴終了の宣言を為すべく、訴訟費用の負担について同法第九六条、第九〇条を適用して主文の通り判決した。

(裁判長裁判官 鈴木忠一 裁判官 谷口茂栄 裁判官 宮崎富哉)

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